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《そらあみ》で紡がれた氷見の物語 -前編-


空に掲げられ、風に揺られる、5色で編まれた網。これが氷見の《そらあみ》。
《そらあみ》は、住民の方々とともに漁網を編むことで、人をつなぎ、記憶をつなぎ、完成した網越しに土地の風景をとらえ直すアートプロジェクトです。

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このプロジェクトを全国各地で展開しているのは、アーティストの五十嵐靖晃さん。

 

 

この記事では、2014年に氷見ではじまり、現在も市民の手によって編み続けられている《そらあみ −氷見−》について、ヒミング側からの視点で、プロジェクト伴奏者のひとりとして前編・後編に分けて紹介していきます。

前編 :《そらあみ -氷見-》のはじまり

後編 :「みんなで編む」ことから生まれた場 《そらあみ》から見えた氷見

《そらあみ  −氷見−》のはじまり

氷見で《そらあみ》を展開するきっかけとなったのは、2015年4月にオープンした「ひみ漁業交流館 魚々座」でした。氷見は、400年以上もの歴史を持つ漁法である「越中式定置網」発祥の地であり、魚々座では氷見が培ってきた漁村文化を体感し、学び、発信していく場所を目指す施設です。館内には越中式定置網を張り巡らせ、定置網の構造・大きさを学ぶことができます。定置網には魚を網へと誘導していく「垣網(かきあみ)」と呼ばれる部分があり、魚々座では屋外から施設入口へと伸ばす設計となっています。その部分を、市民で編んでつくりあげていく《そらあみ》で制作する依頼をしたのがはじまりでした。

 

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そして2014年8月、氷見での《そらあみ》が始動しました。五十嵐さんは3回の事前リサーチを重ね、その間に実際に漁師の船に乗せてもらい、人の気質に触れ、話をして、氷見という土地を身体に蓄積していきました。このリサーチ中で特に印象的だったのが、ある漁師さんから教えてもらった、かつて行われていた「村張り」というものでした。

 

「氷見に定置網漁が根付いた理由を知っているか?氷見には豊かな山と海があるけれど、平地はたくさんあるわけではない。大きな畑をしづらく、米は大量に生産できないから専業農家は難しい。定置網漁は、近くの海場に仕掛けている網にかかっている魚を獲るから、毎日帰って来ることができるし、ある程度時間を管理することができる。そこで半農半漁の働き方が生まれてきた。だけど漁をするにはお金がかかるので、村全体で資金を出し合い、ひとつの網を張ったんだ。」

 

これは、村網(むらあみ)とも呼ばれ、ムラの全戸が網株を平等にわけ、出資金をもとに漁網の資材を購入し、ムラ全体で管理・運営したり、各戸がそれぞれに同じ量、同じ質の材料を購入し、それで漁網をつくり、共同経営で漁をおこなうこと(※)です。この「村張り」から見えてきたのは、村のコミュニティで漁をすることを通して、獲れた魚を分かち合うことはもちろん、網を編むための道具を持ち寄り、網が破れたら補修して、古くなったら新しい網をこしらえて、掛け替える……といった仕事を共にすることで、人びとの結びつきをより強靭なものにし、ひとつの共同体として豊かに生きていく術でした。
この「村張り」の話は、氷見で展開していく《そらあみ》の大切なキーワードとなりました。網の歴史をもつ氷見という土地だからこそ、多くの人を巻き込みながら網を編んでいくことを通して、現代の「村張り」のような存在にしていけるのではないか。地域の方々から観光客、小さな子どもまで、少しずつ編み手が増えていって、「自分たちの網」として編まれ続けられることで、豊かな場が育まれていってほしいという想いが生まれました。そして、ある一定期間編んだものを展示して完成とするのではなく、長く人と人との関係を編み紡いでいくように、また季節ごとに網を掛け替える定置網のような、氷見ならではの《そらあみ》の指針が見えてきたのでした。

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彩りある糸が特徴的な《そらあみ》は、舞台となる土地に所縁のある色に糸を染めて、編んでいきます。氷見での日々を過ごした五十嵐さんは、《そらあみ》で使う糸の色を考えていきました。

選んだのは、白・黒・緑・橙・水色の5色。

まず白。これは雪と気嵐。気嵐とは、海水よりも空気が冷たい日に海面で起こる現象のことで、湯気のように一面真っ白な霧が広がる冬の風景です。

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黒は、氷見の街並みで印象的な屋根瓦と定置網の色。

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緑は、立山連峰から流れくる富山湾の海の色。

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橙は、出港前に身体を温める焚き火と、漁をしているときに昇りはじめる朝日。

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水色は、空と網を引き上げるときに目に入って印象にのこったという船のデッキの色。

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こうして五十嵐さんの経験が凝縮された、氷見の《そらあみ》の色が生まれたのでした。

 

次回は、後編氷見で《そらあみ》を行った様子のレポートをお届けします。