3話目表紙

〔氷見おんな酒場放浪記 vol.2〕ひみつカレーのひみつのお話 仲有紀氏(ひみつカレー店主) (第3回 /全 たぶん3回)


私は某TV番組のファンである。

ここでは、番組に敬意を払いつつ、そんな酒場で誰かに少し話をしたくなるようなことを綴れればという思いで、このタイトルとした。

 

好きな働き方をしたい。人生の棚卸しをして、自分の気持ちを確認した仲さん。

氷見のハローワークには、望む環境の求人はありませんでした。

ないなら、自分でやればいい。そう決意して、また新たな一歩を踏み出そうとしていました。

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第2話はこちら

 


 

『店をやると決めて、三日後に開店しました(笑)』

氷見にやりたい仕事がなかった。

だから、自分で始めることにした。やりたいようにやればいい。

当時、親戚の方がスナックを経営しており、とりあえず、そこをお昼間だけ使わせてもらえることになった。

自分ひとりでやるんだし、営業は週に一回。当面のお客さんは、ママ友10人だけと決めた。

しかし、ここでふと、あることに気が付いた。

ここまで決めておいてなんだが、そもそも、何のお店にするのか全く決めていなかった。もはや、すがすがしいほどのノープラン。

 

子育てに忙しいママ友の、週一回のお外ランチ。一体、何がいいだろう。

ごはん、お味噌汁、おかず、小鉢、また小鉢・・と、いろいろついてくる昼定食は、絶対無理、ひとりだし。10食分だけど、売れ残っても結構困る。仮に余って家に持って帰っても、みんなが喜んで食べてくれるものにしたい。そうしたら、その日の夕飯は考えなくていい。それはそれでこっちはラッキー・・(!)。

 

家族が毎日でも喜んで食べてくれるもの。頭を悩ます日々が続く・・と思ったけれど、あっさり三日で思いついた。

そうだカレーだ!我らカレー大好き一家。しかも、カレーなら、鍋から器によそうだけ。なんという一石二鳥!天才か!

 

えー!そんな感じでカレーになっちゃったんですか?!と、ツッコミを入れたい気持ちをまたしてもグッと抑えつつ、まだまだひみつのお話は続きました。

 

仲さん、このとき35歳。

余っても家族が喜んで食べてくれることと、鍋から器によそうだけという、オペレーションの少なさに気が付いて、お店を始めると決めて、そのわずか三日後、ひとりでカレー店を営むことになったのだった。

 

 

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カレーはみんな大好き。でも、いつも自分が作っているような市販のルーのカレーなら、わざわざお金を出して食べには来てくれないだろう。私が作る、お店の味。うーむ。するとここでふと、ある記憶が蘇ってきた。

『そういえばお店の味、一回作ったことがある!って、思い出したんです。初めてスパイスから作ったカレーの感動が、なんかフッと蘇りました!』と、笑顔で仲さんは仰った。

そう、なにげなく図書館で借りた、あの喜八さんのカレーのレシピ本を、再び手に取るときが来たのだった。

 

氷見には、やりたい仕事がなかった。じゃあ、どういう働き方をしたいのか。

こうして、自分や自分の環境と向き合い、人生の棚卸しをしたあの日が、仲さんにとってのターニングポイントとなったのだった。

 

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 『ひみつカレーのひみつのルール』

とりあえず、美味しいカレーはできた。でも、ママ友の週に一度の貴重なお外ランチが、毎週同じカレーでは、飽きられてしまう。だったら、毎日の家事の合間に、ちょこちょことレシピを考えて、週替わりカレー店にしようと決めた。

 

こうして平日の週一回、ママが子どもと安心してランチを楽しめる、氷見唯一の店として、完全に店主の希望に沿った(店主の都合に合わせて営業する)カレー店、ひみつカレーがついに誕生した。

そして、このわがままな(笑)新米店主は、ひみつカレー誕生と同時に、あるルールを作ってしまった。

ひみつカレー唯一のルール、それは「広告宣伝費は一切かけない!」こと。

 

【新米店主の構想】

①広告宣伝費をかけないことで価格を抑えることができる

②ママ友10人が気軽に毎週来ることができる

③あれ?イケる気しかしない!!

 

すると、当時流行りだしていたSNSに、次々とお客さんが投稿してくれ、週に一回、しかも10食限定という「なかなか食べられない店」として、ひみつカレーの評判がどんどん拡散していった。このおかげで、お店も週に一回だったのが二回に、一日10食だったのが30食に、と事業の拡大へと繋がっていった。

 

と、ここでオープン当時、特に工夫したことは何か、伺ってみた。

『当時、twitter、Facebook、mixiに「ひみつカレーなう」って、つぶやいてもらったら、コーヒーをサービスする、「つぶやきサービス」というのをやってみました。SNSに出た情報に対して、すごくみんな興味津々の時代でしたしね。』

SNSを味方にした、仲さんのこの作戦は、見事に大成功。全国津々浦々のカレー好きたちが、はるばるひみつカレーにまで現れるようになっていった。

 

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ひみつカレーオープン当時の貴重なメニュー表。今週のカレーはなにかな?とワクワクしながら、お客さんはつぶやいていたのだろう。

 

『美味しいと思う感覚を、常に高いレベルに置いておくこと』

手探りだけど、楽しい毎日。あっという間に、半年の月日が流れていった。

ちょうどその頃、富山市のカレーイベントに出店しないかと、ひみつカレーに初めて声がかかった。

『それまで、氷見でひとり気楽に営業してたけど、富山のカレーイベントってなると、私なんかが出ていいの?って、本気で迷いましたね。でも、どうせ誰もひみつカレーのことを知らないから、逆に楽しんで参加しました。結局、並ばずに買える唯一の店って感じになって、ぱっぱぱっぱと売れていきました。』と、笑顔で仲さんは仰った。

そして、この二日間のイベントで、仲さんは、なんと1,100食のカレーを売り切ったのだった。

しばらくしてから、「この前イベントで出店されてましたよね!」と、ぽつぽつとお客さんが来てくれるようになった。このことで、仲さんは、一人で切り盛りする店主として、実際に自分のカレーを食べてもらえて、効率よくファンを増やす方法に気づいたのだった。

 

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去年のセイズファーム収穫祭「says days」出店時。当然ながらひみつカレーは長蛇の列をなし、即完売であった。

 

と、ここで、仲さんご自身が一番大切にしていることは何か、伺ってみた。

『やっぱり私、小さい頃の影響か、外食がすごく好きなんですね。それで、自分が美味しいと思う感覚を、常に高いものにしていたいんです。なんか、こう毎日作っていると、だんだん自分のカレーが美味しいのか、よくわからなくなってくるんです。だから、外で食事して、自分の美味しいという感覚はどういうものか、温度かな、舌触りかな、一体何に自分は美味しいと感じているのかなと考えること、そういうことを大切にしています。だから、私、いろんなところに食べに行かないといけないのです!』

 

途中、離婚を経験され、現在はお子様二人を育てながら、テイクアウト専門店を切り盛りされている、仲さん。そんな慌ただしい毎日の中、店主として最も大切にしていること。それは、美味しいと感じる感覚。

同じスパイス、同じレシピで作っても、人が違えば全然違ったカレーになる。カレーって本当に面白い。

『自分自身がナビゲーターとなり、自分の美味しいと思うものを作って食べてもらいたい。だから常に、美味しさに対して貪欲にいようと思うんです。』と、仲さんは仰った。

 

小さい頃、食いしん坊のお父様に連れられ、家族みんなで美味しいものを食べ歩いていた、仲さん。美味しいものを食べると、自然と会話も盛り上がるし、みんなが笑顔になっていた。今は、みんなを笑顔にできるひみつカレーがあることに、心から幸せを感じていた。

 

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と、ここで最後に、ひみつカレーの店名の由来は何か、伺ってみた。

『それが一番のひみつです(ニッコリ)!』

ひみつカレーのひみつのお話。それこそがここにあったのだった。

 

 

 

今回も、素敵なお話をお聞かせいただいた。

私、とても満足している。

 

 

 

しまった!

大変なことを失念していたことに気が付いた!

カブスは、氷見の海にまつわるWebマガジン。 余韻に浸っている場合じゃない。

慌てて、仲さんに氷見の海にまつわるエピソードを伺ってみた。

 

『そうそう、海でしたね!私、子どものころから、氷見のこと知ってたんです。あ、みなさん「寒ブリの歌」って知ってます?あれ?やっぱりみなさんご存じない。私、小学校とき、「寒ブリの歌」を6年生全員で、三部合唱で歌ったんです。なんでか知らんけど、合唱の先生が突然この歌を引っ張り出してきて。でももう、とにかく荘厳な曲で、歌っているうちに、自分が鰤なんじゃないかと本気で感情移入してくるんですね!だから、クライマックスとか、自分が鰤なもんだから、感極まって、涙が出てくるのを必死でこらえながらみんな歌ってましたよ!』

仲さんは、鰤じゃないですよ!と、ツッコミを入れたい気持ちを抑えつつ、さらに「寒ブリの歌」への思いを語られました。

『でも、富山の人に聞いたら、みんな知らないの。氷見の人も。こんな名曲なのに!大阪の同級生なんか、みんなこの曲に思い入れがあるもんだから、私、幼馴染の子の結婚式のとき、アコーディオンで「寒ブリの歌」を一生懸命練習して、余興で弾きましたしね!』

 

 

どんだけ寒ブリに思い入れが強いのか、6年生一同(笑)。

 

ぶんぶんブリブリ・・歌詞が攻めているのに、なぜか悲しい短調のメロディー。くるくる変わる曲調に、ゲラゲラ笑っていたが、ふと隣にいたカメラスタッフに目をやると、完全に鰤に感情移入をして、心を持っていかれているではないか。

 

しかし、ここでグッと気を引き締め、仲さんに、このコラムをご覧の方に、何か伝えたいことはないか伺ってみた。

『そうですね、やっぱり「寒ブリの歌」を、氷見の小学生全員が歌えるようになってもらいたいですね!氷見駅のチャイムとか、もうこれにしたらいいのに。ピポパポーピポパポーとか、なんか終着駅っぽいし。まだまだ知られてなくて、私の力足らずですみませんって感じです。』と、笑いながら仲さんは仰った。

 

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もはやカレーでもなくなってるし!!と、最後にツッコミを入れさせていただき、仲さんがこれから歩む、ひみつの道のりも、私はずっと応援していこうと決めた。

 

ソレ!

 

『編集後記』

今回も取材をさせていただいた後、仲さんが普段ご贔屓にされているお店に連れてってもらいました。

Le chat noir(ル・シャノワール)』さんです。

 

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早速、ワインで乾杯し、こちらのお店では、『愛』について話題に上がりました。

愛するということ、それはすべてを受け入れること、許すこと。では、自分たちが愛している食べ物は何か。

仲さんは、うどんを愛しています。うどんのする仕業は、すべて許しています、許せます。讃岐うどん、カレーうどん、30円のふにゃふにゃうどん。愛すべき存在、うどん。実験的に三日間三食すべてうどんにしてみましたが、まったく飽きなかったそう。

その他、我々取材班は、小魚ピーナッツ、シュークリーム、中華くらげ。みんなそうだったのか。こう聞いてみると、面白い。

どこをどう愛しているのか、その理由も聞いてみたりすると、お相手の新しい一面が垣間見えて楽しいので、ぜひ家族や恋人、お友達に聞いてみてください。愛している理由プレゼン、聞く側も語る側も盛り上がること間違いなし。

 

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さて、今夜は、イタリアンとワインの酒場。ここで仲さんより、ワインの味の表現にある、「スパイシー」って一体何か、と議題が投じられました。

仲さんは、いつもスパイスのことを考えておられます。それは、お酒を楽しんでいるときでも変わりません。ワインの中のスパイシー。確かにワインの原料に、スパイスは一切入っていません。表現として、クローブ、ナツメグ、シナモンなどがよく登場します。それに関しては、果実味よりも、ほのかな木の香りがするなど、どちらかというとエスニックな香りを表現しているようです。他にも、「湿ったコンクリート」だったり、「濡れた犬」など、飲み物ですよね?と、ついツッコミを入れたくなるような表現も、ワインの真骨頂。仲さん曰く、複数のスパイスを調合すると、ひとつひとつの香りがマスキングとなり、一個が尖らず全体で奏でるものになるんだとか。複雑なワインの表現に、スパイスは外せませんね。

 

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そして仲さんも我々取材班同様、日々飲みニケーションを楽しんでおられます。

と、ここで仲さんより、ついつい飲みすぎた翌日対策に、何かしていることはあるの?と、逆質問を受けました。

「ハイチ○ールC、一択です。」と、取材班は声を揃えます。「えー!いい情報聞いた!今日はそういうことを知りたかったのよ!」と、ニコニコの仲さん。とりあえず、内容はちょっとあれですけど、お役に立てたようでなんか嬉しいです(笑)。

 

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と、楽しい会話にワインも進みます。なんならお皿に残ったソースも、バゲットにつけてペロリです。

 

 

しまった!

またしても大変なことを失念していたことに気が付いた!

明日は、友人の結婚式で東京に行かなければならない。出がけにはわかっていたくせに、仲さんとの酒場トークが盛り上がり、ついついワインを十二分に楽しんでしまった。

 

 

 

JR富山駅、朝6:36。

まだまだ新しい北陸新幹線に駆け込み乗車し、その一秒後に背中で扉が閉まった。

息を切らして自由席に座り、おもむろにポケットからガラスの小瓶を取り出したことは、ここだけのひみつのお話とさせてください。

 

photo by hiroko takeda

 

 

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仲さん「おかげさまでお客様とスタッフに恵まれて、なんとかやらせてもらってます!みんな来てね!」